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03 夜の学校は魔境

2013.02.21 (Thu)

そういうわけで色々あった昼は過ぎ、漸く自由な時間、放課後も過ぎて日は沈み。
独断と偏見と法律の裏側を駆使して、簡単に言うとコネでなんとか手に入れた『寮の一人部屋』で一人ゆっくりと香るコーヒーを楽しんでいた。
いや、私は別にコーヒーにこだわりが在るとか言うわけではない。砂糖もミルクもドバドバ入れる、コーヒー好きな人間にしてみれば冒涜的と言う飲み方を好む、背徳的コーヒー好きだ。……どんな表現だ。
いや違う。話を戻そう。そもそも私がコーヒーを……いや、何処に戻そうとしているんだ私。
ではなくて。
私は多重転生トリッパーに分類される存在なのだが、そんな私に付けられたコードネームは『演算』。演算娘とか呼ばれることも在るが、大元と成った人間の人格は男性だったりする。もう凄まじい年月を女性として過ごしたし、まぁ、その、なんだ。色恋沙汰も多々繰り返した。最早男性女性に拘るような年齢でも無い。というか娘と付けられるような年齢でもないのだが、まぁその辺りは好意的に解釈しておこう。ババアとか呼ばれたくは無い。
そんな多重転生トリッパーな私は、コードネームの通り演算能力という一点にかけて、私の所属するトリッパーコミュニティー、代行の管理する部においては間違いなくトップを担っている。まぁ、その分戦闘能力においては最底辺なのだが。その代わり、私は社会性においてとても有利な存在であったりする。
例えば現在の私で言えば、私の属するコミュニティーを背後から支援して、例えば私の両親を極端に出世させて、生来中流だった家を上流に押し上げたりとか、父親を取り込んだコミュニティーを安定させたり、そのほかにも世界中の投資家の一部に私の端末を預け、適宜指示に従う限り利益を与えると言う契約で、いざという時に世界経済を裏から動かすことが可能になったりしている。
そうしたコネ、というか形成したコミュニティーを利用し、先ず最初に私が自分の利益として得たのが、この学生寮の個室という、至極如何でもいい物だったのだから、我ながら苦笑が零れた。
とはいえ今考えればこれは凄まじいファインプレーだったのかもしれない。何せあの学校の学生寮なのだ。凄まじい確立で他の転生者とバッティングしていた可能性が高いのだ。
何せ転生者には必ず付与される、というか発生するスキルに『奇運』というモノが存在する。これは物語で言う主人公属性から主人公補正を抜いた物だ。要するに、名探偵が自ずと事件に遭遇する、と言う奴。但し解決できるか不明、と言うのが奇運だ。しかも厄介なのが、この奇運同士は引き合うのだ。
だから、この部屋の外から聞こえる爆音とかはきっと気のせいだと錯覚する。完全防音の学生寮が地味に揺れているような気がするが、まぁきっと多分気のせいなのだ。

と、そんな事を考えていると、不意にスマホが音を立てて鳴り出した。綾乃から連絡でも来たのだろうかと画面を覗き込むと、其処に表示されているのは綾乃の名前ではなく、代行という不吉な二文字。
「……もしもし」
『やぁ、演算。調子は如何だい?』
「文句を言ってもどうしようもないのは理解してるが、酷いものだよ」
『はっはっは。いやまぁ、その、ゴメンね?』
と、なにやら素直に謝る代行。如何したのかと首を傾げつつ話を聞いてみて、思わず額に手を当てる。
代行曰く、最初この世界への介入以来を受けたとき、この世界に関する情報は単純に何処かの世界で発表された腐女子ゲーであり、問題が在ると言っても内側からではなく外側からの介入で十分ことが済む問題だ、と記載されていたのだ。それ故に私の休暇先としてこの世界が選ばれたのだ。
……が、その実はただの世界ではなく、腐女子ゲーを模倣して、どこぞの転生神が面白半分に生み出した世界なのだと言う。どこぞの世界でこの腐女子ゲーが流行り、其処を管理していた某転生神。リクエストをとっても全員が全員この世界をリクエストした為、なら全員此処にブッコメ! と突っ込まれたのがこの世界なのだと言う。
つまり、本来なら見過ごされていた筈の不正書類。そこに休暇半分で私が介入した為不正が発覚したという事。
この一軒で某転生神は更迭されることに。
「では、一件落着?」
『まさか。その世界に送り込まれた転生者達はもうその世界に定着してるんだし』
「………はぁ」
しかも最悪なのが、この世界のモデルとなった世界がかなりヤバイ世界だと言う点に在るのだとか。
そんな事を言いつつ、不意に手元に白い光が集まっていく。ポンッ、とVRMMO辺りのアイテムドロップが如く手元に沸いたソレ。如何見ても市販の大学ノートだ。表紙に書かれているのは、バベル語(と呼んでいる我々の言葉)で「攻略まとめ」と書かれていた。
『一応アフターケアってことで、この世界の大元になったゲームとそのスピンオフ、そのマトメと攻略情報ね』
「ありがたい。でも、何でバベル?」
『万が一内容を一般転生者に知られると拙いからね』
バベル語、というかバベル文字なら一目見ただけで読める人間はまず存在しない。余程転生を繰り返しているとかなら可能性は無いでもないが。
『出来れば見て覚えたあとは燃やして欲しい。万が一が無いとは限らないからね』
「了解」
まぁ、確かに万に一つ、『すべての言語が理解できるチート』をもった人間が居ないとも限らないのだから。
代行の言葉を聞きつつ、軽くノートに視線を走らせて、再びくらっと来た。なんだこれ。
先ず本編の学園ラブコメルート。各員に問題は無いのだが、親友キャラの寺町京子の隠し友好度がマイナスに突入した時点で発生する皆殺し編、各ヒーロールートに突入した時点で発生するライバルヒロイン事件。ヒーローの中に存在する人外ヒーロールートには流血沙汰が在るし、スピンオフが異世界トリップに退魔師モノと超能力モノと魔法少女モノ!!??
「商業展開広すぎるだろうっ!!」
『いやぁ、それほどの人気だったみたいだよ?』
しかも展開によってはスピンオフ同士でクロスオーバーするらしい。めんどくさいっ!!!
そんな事を考えつつ、ふと眼に留まったのは時系列を整理して記載されたページ。本編に加えスピンオフ側の時系列まで合わせて書かれたページの、その中の一つ。本日の日付、その夜の時間帯に一つイベントが記載されていたのだ。
何となく嫌な予感を感じつつページをチェック。
この世界の原作である『プリズム・ロード ~私と彼と学園生活っ!~』の番外編、『戦う魔法少女のお仕事』における、主人公の少女とメインヒーローの彼の出会いの話。
……今初めてこの世界の原作の名前を知ったんだけど、凄まじい。
――ではなくて。そのイベントが今晩在るのだそうだ。
「それで、私にどうしろと?」
『別にどうしろ、とは言わないよ。でもね、コレ放置するのは拙いと思う』
「というと?」
『多分だけど、転生者の子達が介入するんじゃないかな?』
原作における初対面の場面。最も印象に残るであろうそのシーン。そのシーンに介入できるとすれば……それは原作(この場合は『戦う魔法少女~』のこと)に対する大きな利点となるだろう。それを狙い、転生者達が介入を行なったとしても、まぁ不思議ではない。
『彼女達が、平穏無事に事を運べると思うかい?』
「……………………」
それは、なんだろうか。刹那的快楽主義者のあの腐女子たちに、物語を最初から最後まで見据えて、その結果最善を目指す、何て事が出来るだろうか。
彼女達がOTAKUであればまだ良かった。OTAKUは自らの快楽に素直だが、それと同時にこれでもかと言うほど根っこが臆病だ。OTAKUはHENTAIで在るが同時に紳士なのだ。臆病であるが故にそう有らざるを得ないのだ。
然し腐女子は違う。OTAKUと違い欲望に素直且つ周囲を押しのける強引さを持ち合わせている。しかも腐女子は間違っても淑女にはならない。
『マトメに書いてるんだけど、この出会いって割と重要で、裏設定で魔王の血を引く彼女が魔に魅入られたとき、愛の力で自分を取り戻す、ってシナリオが在るんだよ。まぁ、この魔法少女のは大元の腐女子ゲーと違ってヒーローが固定されてるから』
「魔王の血、愛の力、うぇぇぇ……」
ダメだ!!! 臭い、くさすぎるうううううっっ!!!
『そういや君って、そういうのダメだったね』
「確かに色濃い沙汰は経験も在る。が、そういう青臭い言葉は苦手だ」
『君の色恋沙汰って、妙に老成しているのが多かったからね』
「やかましい。平均結婚年齢は20半ばだったぞ?」
トリップなら別だが、転生の場合は前後の私はある程度別人として認識している。故に、私は何度かは結婚もしているし子供も居たりした。その子達は何処かの三千世界で平和に暮らしていると願っている。
「で、行ったほうがいいんだな?」
『休暇を続けたいならね』
まぁ、実際世界が滅びてしまえば、この世界での休暇は其処で終わりとなってしまう。この世界、腐女子が大量で面倒は面倒なのだが、エイリアンの侵略があったり謎の大怪獣が大量発生していた並行世界から侵略者ガ訪れていたりとかな面倒な状況には無い。腐女子達のことを除けばとても住み心地のいい世界なのだ。
「仕方ない。行ってくる」
『ああ。気をつけて』
言って、簡単に服を着替える。
下手に衣装を用意しても目立つので、此処は簡単にこの学園の制服を強化魔改造(見た目は同じで防御力や各種耐性が急上昇)した物の上に馴染みの白衣とバイザーを装着して、と。
「……よし」
顔が隠れているのを姿見でチェックして、最後に玄関でブーツを履いて駆け出す。
イベントのステージは学園内の体育会系エリア・南公園となっていた。女子寮からは園内バスなり電車なりで通う距離なのだが、流石にこの時間にそんな公共施設は利用できない。しかも目的が目的だ。下手をするとドンパチに巻き込みかねない。
そんな事を考えながら、目的地の公園へ向けて一気に加速した。




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この世界の裏側。魔法世界と呼ばれる、魔法使い達の世界が在る。魔法使い達はその力を使い、世界の安定と維持のために日夜努力をしている――と言うのが公式設定の一文。
但し冷静にこの世界を観察してみると、実のところは大分様相が様変わりしてしまう。
この世界における元々の魔法使いと言うのは、嘗ての時代魔女狩りから逃れた魔女達、その中に紛れ込んでいたホンモノの魔女が見つけ、現世に繋ぎ固定した一つの世界が起源だ。
この世界は人造世界であるが故、その維持には莫大なコストが掛かる。嘗てその世界を作り出した魔女達は、その世界を自らの魔力で維持しようとした。が、その結果は失敗。一つの世界を並の人間数十人で支えるなど無理に決まっているのだ。
ソレに対し魔女達は、足りないならば在るところから持って来ればいい――古来からある魔術の定理として、外部からの魔力供給を考えた。
然し生贄を使うのは絶対的に不可能。何せ彼女等を排斥したのは、そうした外道の魔術に対する恐れ。其処から逃れる為に外道に落ちては本末転倒だ。
故に彼女等が選んだのは、世界に自然に生まれる魔力の――いや、世界の生命力の結晶、マギリングピースと呼ばれる代物を集めることだ。
これは世界の生命力の余剰分が結晶化したもので、ある意味純正の魔力の結晶といっても相違ない代物だ。
このマギリングピース、魔力の純粋な結晶であるが故、同時に万能機のような能力も持つ。つまり、願いをかなえてくれるのだ。
無垢な魔力の塊に、意志と言う方向性を与えて導く。原始的な魔法に近いのだが、魔術ほど洗礼されていないが故に暴走しやすい。
この暴走したマギリングピースを回収し、自らの世界の克てとする。これが嘗ての世界において魔法世界を維持する手段であると同時に、魔女及び魔法使いを正義と秩序の側に結びつけ流事に成る。

対して現在の魔法世界。
既に魔法世界の魔法使いは現行世界にこそ劣るものの、嘗て魔法使いたちが排斥された時代の総人口には匹敵し、彼らの未によって魔法世界を支えることは可能となっている。
それに加え、次代が既に科学の時代だ。魔法と言うものが異端であると知っている魔法使い達は、魔法世界に引篭もり、既に現行世界へのマギリングピース回収は行なわれていない。
つまり、現状それは完全に放置されてしまっているという事だ。

さて、話は変わるが、このスピンオフ作品『戦う魔法少女のお仕事』における主人公、佐々木 沙希 (ささき さき) は、現世に残る魔法使いの家系だ。嘗て魔法世界において魔王を名乗った彼女の父が、勇者である母に倒され、現世へ駆け落ち。現在平和に暮らしている、と言うものだ。
勇者と魔王の両方の素質を引き継いだ彼女はその身のうちに莫大な素質を持ち、その制御のためにも幼少の砌から魔法と言う技術を練磨していた。
そんな彼女の前に不意に現れたのが、現代に現れたマギリングピース。
大気汚染や人口の増加、様々な要因から世界が弱った現代において、『地球の生命力の余剰結晶』であるマギリングピースが発生するのはありえない。
然しこの場、この学園においてだけはその条件がひっくり返る。
優れた地脈に加え、優れた人材、自然の多いこの学園は、一種の異境だ。万人が優れた才能と力を持つこの異境に溜まった力が、龍脈を通して結晶化し顕現する。これがこの物語におけるマギリングピースだ。
純粋な地球の余剰生命力結晶とは違い、現代のマギリングピースはその生成由来に人がかかわっている。それ故にオリジナルのマギリングピースに比べ、現代のソレはかなり不安定且つ暴走しやすい。
しかし肝心のソレを封印できる魔法使いは既に現代には存在しない。そう、彼女を除いては。
偶々居合わせただけの魔法少女。でも彼女は此処に生きている。そんな彼女が戦うことを決意して、守るために戦っていく勇気の御伽噺。それがこの『戦う魔法少女のお仕事』という物語だ。
……『プリズム・ロード ~私と彼と学園生活っ!~』、に比べればかなり好みの作品なのだが、如何せん現実として相対すると疲れる。

さて、思考を現在に戻そう。
到着した南公園。普段であれば既に日が沈んだ今ごろ、誰も寄り付かないこの公園は本来静かなはずだ。
然し現在その公園の中。木々に覆われた林の中の道には、薄い魔力が充満し、一種の異界――隔離結界を形成している。私は霊能力が扱えるので、一応魔術系も多少は扱える。
だからこそ分るのだが、この結界が術式として編み上げられたものではなく、単純に高純度の魔力によって形成されている場でしかないという事が。
そうして更に視界を延ばす。其処に居るのは、巨大な黒い犬のような怪物と、それと相対する茶髪の私と同じ制服に身を包み、その手の先にうす赤い魔力を溜めている少女と、その背に庇われるようにして倒れている少年。
これが原作のシーンか、と一瞬息を付きかけて、思わず溜息が洩れる。
少女と少年の視線の先。其処に立つ巨大な黒い犬。けれどもその巨大な黒い犬は少年少女に向き合っていたわけではない。

「コレが私の必殺のぉ!!」「私のこの手が唸って光る、勝利を掴めと轟き叫ぶぅ!!」「ディバイン!ディバイン!ディバイン!ディバイン! ディバイイイイイイイイン!!!!!」「ユニバアアアアアアス!!!」「今、必殺の、葬送曲!!」「我が魔剣技の冴を見よ!!」「チャンバー内正常加圧、コレでも喰らええええ!!!」

……カオスである。
案の定、とでも言うべきだろうか。目の前に広がるカオスは、腐女子転生者達によって形成されている。
つまり、本編介入ではなく、こちら側で魔法少女として活躍しよう、という思惑で現れた面々なのだろう。
まぁ、学校でハーレム建設して肉欲ウハウハ、なんて考えている連中よりは、魔法少女になって世界を影から守る私カコイイ! は幾らか健全だろう。うん、多分。
とりあえずこの現場如何したものかなぁ、なんて考えていると、不意に此方に視線を向けた魔法少女、佐々木沙希と視線が絡み合った。
小さく一つ息を吐いて、小走りに少女の下へと駆け寄っていく。
「貴女、大丈夫?」
「わ、わたしは。――っていうか、これは何ごと!? 貴女も関係者!?」
「私は違うぞ。……とりあえず、アレは連中に任せて、私達はこの場からさっさと離れたほうがいいと思うんだが?」
「そ、そう、ね?」
「ちょ、いいのかよ?!」
「君にあの戦場に対して何か出来るのかい?」
佐々木沙希のほうはすぐに納得したものの、その背後で腰を抜かしていた少年の方は若干反論を返してきて。とはいえ此処に居たところで彼に何かができるというわけでもない。
とりあえず佐々木沙希と共に少年――確か馬場蛮とかいう名前の少年の脇に腕を入れて、引き摺るようにして大急ぎでその場を後にしたのだった。





「で、説明してくれるんでしょうね?」
「その前に自己紹介だ。私は桜場雪吹。キミ達は?」
「私は佐々木沙希。高等部の一年生よ」
「俺もか? 俺は馬場蛮。同じく高等部一年生だ」
原作では私と同じAクラスであったはずの彼女と彼。然しこの世界においては腐女子転生者達の影響でBクラスに移動しているらしい。
そんな彼女等。とりあえず自己紹介をしたのだが。
「で、あれは何? 貴女は何? あれと如何いう関係!?」
「落ち着け。説明はしてやる……」
言ってから、如何したものかと本格的に頭を抱える。
とりあえず、転生者云々の話は絶対に出来ない。というか、その辺りに触れるのはルール上禁止だ。
故に語るならば、腐女子ではなく、あの怪物について。もしくは私と言う存在に関して、だろうか。
「先ず、あの怪物はマギリングピースの怪物、といって分るだろうか」
「マギリングピース? 何処かで聞いたような……」
「説明は省く。そういうものだと覚えておけ。で、あの戦っていた子達は知らん。魔法使いや魔女は私の専門外だ」
「ドキッ」
「うん?」
態々口でドキッって言う奴はじめてみた。じゃなくて。
「私は霊能力者だ。その昔死掛けたときに霊能力に目覚めて、知り合った霊能力者の下で少しだけ霊能力が扱えるようになった。此処へ来たのはその能力で違和感を感じたからだ。Did you understand ?」
「れ、霊能力者……魔法少女に霊能力者って、もう俺の社会常識はボロボロだ」
「世の中そんなものだぞ?」
言いつつ崩れ落ちる馬場蛮に呟いて、改めて佐々木沙希に視線を合わせる。
「さて、それで、魔法少女さん?」
「わっ、私は魔法少女なんて代物じゃ……」
「いや、俺の前で手を光らせておいて今さらそれは無理だろう」
「うっ……」
何か言いよどむ佐々木沙希。社会常識はボロボロとか言ってたくせに、中々いいツッコミをする馬場蛮。
「佐々木沙希。君はどうする? あえてあの戦場に突っ込むか?」
「まさか! なんで私がそんな事しなくちゃいけないのよ!! っていうか、フルネーム繋げて呼ぶな! 沙希でいいわよ」
実際、この状況なら私でも同じように判断するだろう。原作における彼女が、魔法少女としてマギリングピースに立ち向かったのは、あくまで彼女以外にマギリングピースに立ち向かえる人材が他に存在せず、彼女がやらねば誰がやる、というような状況にあったからこそ、彼女は戦場へと立ち向かっていったのだとか。
然し現状彼女の目の前に在るのは、マギリングピースの災厄だけではなく、ソレと立ち向かう数多くの魔法少女が居る戦場だ。しかも、如何見ても戦闘向けの魔法少女が多々居る戦場だ。
そんなところに、態々素人が死にに行く必要など、今の彼女は感じもしないだろう。
「ならばいい。嗚呼いう事に係わり合いに成っても、幸せに成れる要素なんて滅多にない」
「まぁ、私も自分から死にに行くような自虐的な趣味は無いわね」
その彼女の返答に満足げに頷いた。
「――ふむ、どうやら向うの戦いもそろそろ決着のようだ」
言って視線を元来た方向へと飛ばす。視線の先、南公園。其処には、静かに高まる魔力の気配を感じる。多分、最後の必殺技でもかます心算なのだろう。
……なんだろうか、数人分の必殺技で南公園が更地になるような予感を感じるのだが。まぁ、私には関係ないし。
「……ねぇ、良いのアレ」
「関わるな。ほうっておけ。私たちまであれの関係者にされるぞ!」
「……そうね。私は何も見てないし、何も聞いてない! アンタもそういう事でいいわね!」
「お、おう」
馬場蛮の答えに満足気に頷いて。とりあえず寮に戻るべく二人と共に夜の学園内を歩き出したのだった。



「ところで、二人はこんな時間になんであんな場所に? 逢引?」
「違うわよっ! 私は魔法の練習!!」
「俺は……寝てた」
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02 腹黒い少女達。

2012.08.11 (Sat)
マジで勘弁して欲しい。

とりあえずという事で、綾乃と共に生徒会の見学に。此処からがまた苦難の道の始まりだった。
先ず最初に攻撃を仕掛けてきたのは淫乱ピンクチーム!「生徒会へ行くの? なら私も行ってみたいNA☆」という連中が複数人。口では可愛らしい喋りをしているものの、その目に浮かんでいるのは侮蔑と敵意と醜悪な感情。もうこの時点で綾乃(メインヒロイン)は涙目であるのだが、この可愛らしい涙目すら媚を売っていると取られるらしく、一瞬にして増大する殺気。
私の心臓がマッハで有頂天、じゃなくて。
これは拙いと「呼び出しを受けたのは私で、綾乃はその付き添い」と微妙に言葉を捻じ曲げて、まるで私が生徒指導に呼び出されたかのような印象を与える。コレで「そう、なら仕方がないわね」と即座に引いていく腐女子面々。さすが計算高い彼女達だ。コレがもし本当に呼び出しなら、呼び出されるような人間に同行する不利を自覚しているのだろう。で、それにもめげず此方をストーキングしてきたのが、俗に綾○タイプと呼ばれる、青髪に沈黙系、クーデレなんかのジャンルに分類される面々だ。
例えばそうだな、これがこっそりと後ろを追いかけてくる少女、などといえば聞こえはいいのかもしれない。だが考えても見て欲しい。似たような配色の少女数人が、音も立てずピッタリと後ろをストーキングしてくるのだ。もう本気で恐い。
更に恐いのが、どうも不思議属性を持った腐女子が混ざっていたらしく、幾ら追跡を振り切っても、突然視界の隅に現れるのだ。一度本気でどうなっているのかと周囲を捜索してみたところ、私の探査範囲内に突然現れる反応を何度かキャッチした。どうやら本気でテレポートか転移かなにかをしているらしい。本気でどうなっているんだこの世界。
AMFやらキャパシティダウンやらを乱発して、なんとか不思議能力者連中の阻害に成功した私たちは、漸くの思いで生徒会室にたどり着くことに成功したのだ。


「やぁ、良く来てくれたね! オレは生徒会の副会長をやってる諏訪 満っていうんだ」
「……桜庭吹雪です」
「うん、ヨロシクね。因みにコッチのムッツリが生徒会会長の山王宮祐だよ」
「――誰がムッツリだ、馬鹿者」

副会長を名乗る茶髪の元気系少年と、その隣に立つ青み掛かった灰色の髪の毛のメガネ生徒会長。
もう既におなか一杯だって言ってるのに、またテンプレな。
一応隣に立つ綾乃の顔を覗いてみたのだが、別に現状ではこの二人を意識しているだとかそういうイベントがあったというわけでは無さそうだ。
……原作知識皆無というのは、矢張り中々に疲れる。
「で、そっちの吹雪ちゃんが推薦してくれる子?」
「はい! 吹雪なら勉強スポーツ万能で、大概のことは何でも出来ますよ!」
「へー、そりゃ凄い!」
言いつつ此方を見てくる副会長。言う割にはその目はすっかり冷め切ったモノで。……何だコイツ? 嘲笑的というか、他人に対して内心で否定的というか。
「まぁ、苦手な分野はあまりありませんが」
「……ほぅ、為らば早速手伝いをしてもらおうか」
そういいながら立ち上がる生徒会長。カツカツと音を立てて歩く彼は、部屋の片隅、プラスチックで出来た可愛らしい棚からUSBメモリを一つとって此方に投げ渡してきた。思わずそれを受け取ると、そのUSBには『か・い・け・い♪』とかわいらしいシーリングが。……これは。
「生徒会の会計が暫く休みでな。本来なら私がやってしまいたいのだが、残念ながら私は新年度の総会に向けての準備があり、ミツルは部活連との折衝がある。そこでコレを君に任せようと思うのだが、出来るか」
そういって真直ぐ此方を見つめてくる生徒会長。よくよく見れば、まだ此方の方が普通の目をしている。
「出来るだけやってみましょうか。使っていいパソコンは?」
「コレを使いたまえ」
言いつつ、彼の指定したデスクトップの前へと腰を下ろす。OSは――2000か、懐かしいなぁ。
「さて、それじゃ吹雪ちゃんは此処でデータ整理をしてもらうとして、綾乃ちゃんはどうする?」
「現状、ミツルについて部活連から資料を集めるか、もしくは此処で雑務――まぁ、私と彼女の補助だな。そのどちらかをしてもらう事になるのだが」
「えっと……」
何故か此方を見てくる綾乃。お前がやりたいほうをすればいいのではないか? という意味をこめて肩をすくめて見せる。
「えっと、今人手が足りてないのはどっちですか?」
「それは――ミツルのほうだろうな」
曰く、ミツルのは部活連――部活組合連合に属する部活そのすべてから、新入部員やらなにやらの資料を受け取ったりして回る仕事なのだそうだ。
「いや、コッチは大丈夫だよ。何回かに分けて回ってるし、もうあとちょっと回るだけだからさ」
言う副会長。やっぱりあの目、微妙に奥で腐った目をしてるよな。アレだろうか、序盤攻略キャラに見えて、実は攻略難易度最難関とかそういうの。
「それじゃ、此処で雑用してます」
「そうか。ならミツル、頼むぞ」
「あいよー。いってきまーす」
「私も書類整理に入るとしよう。では早速だが二条君、お茶を頼む」
「は、はひ!」
――はひ?
顔を真っ赤に染めて、愛らしい表情で慌ててお茶を入れる綾乃。お茶と言っても紅茶な上に、一々ゴールデンルールに乗っ取っている辺りが綾乃の主人公特性を感じさせる。
「はい、吹雪ちゃんもどうぞ」
渡された紅茶。私は飲み物には貴賎なく、紅茶もコーヒーも飲むのだが、コレは中々に美味い。
「美味しい」
「ふむ、見事な手前だ。何処かで作法を習ったのかね?」
「いえ、祖母が紅茶好きで、折角だからと教えてくれたんです」
成程、とか頷いている生徒会長だが、俯瞰視点を持っている私としては、その紅茶好きの祖母というキーワードが何か意味を持っていそうで恐い。
と、そんな紅茶を愉しみつつ、データ整理を進める。まぁブッチャケた話、データの整理なんか既に終わっていて、今は過去分のデータ整理をしている。微妙に帳簿の数字が合わないのが恐かったりするのだが。
と、そんな事をしている最中。不意に視線を上げると、同じく視線を上げていたのだろう綾乃の顔が目に付いた。何を見ているのかとその視線を追えば、其処には壁に映る赤い点。
レーザーポインター? と思わず首をかしげて。
「会長、お茶の御代わりは……」
「あぁ、貰おう」
「は、キャッ」
綾乃本人の視線は単純に会長に向かっていただけらしい。のだが、如何いうわけか突然何も無いところで躓く綾乃。咄嗟に少女に駆け寄り、崩れた姿勢を支えようとした生徒会長。――その背後で、PCのディスプレイが音を立てて吹き飛んだ。

――は?

「っ!? 拙い、全員伏せろ!!」

会長のその言葉。いった本人は綾乃に覆いかぶさるようにして床に伏せた。
私のほうもとりあえずUSBにデータを保存しなおし回収。そのまま身を伏せ、割れた窓側の壁の下へ。
――なんで!? 此処ってラブコメな逆ハ―ギャルゲの世界じゃないの!? なんで銃撃!? 何で狙撃!? 意味が分らない。ワケが分らない!!
そんな混乱を内心に押し隠しつつ、しゃがみながらカーテンを投げるように閉める。
「ななななな何?! 何事でせう!?」
「二条君落ち着きたまえ。多分だが、私を狙った暗殺者だろう」
と、不意に話し出す生徒会長。
聞けば生徒会長は、最近勢力を伸ばしている有力財閥、山王宮グループの御曹司にして次期グループリーダーとまで噂されるほどの存在なのだと言う。
ただ其処には様々な問題があり、例えば彼の上に無能だがそれなりに謀略は出来る兄や、地位を狙う副社長派、他にも彼の地位を狙う異母兄弟だとか。
「……よく、今日まで生きてこれましたね」
「護衛がいい上、初撃さえ乗り切れば此方から対処できる。イリーガルはイリーガルと言う事だ」
「な、なるほど」
とかそんな事を言っている場合じゃないだろう。
カーテンを閉められ視界を遮られ、プロならそこで引くだろうと私は考えていたのだが、どうやら相手はプロかどうか疑わしい。
何せ締めたカーテンに逆上したかのように銃弾を乱射してきたのだ。狙撃銃と言うよりは突撃銃による銃撃。途端にボロボロに穴開きにされたカーテンは、あっという間にその遮蔽機能を失っていく。
これが狙い通りだったのだとすれば見事なものだが。
「会長、とりあえずカーテンが全損する前に逃げるべきかと思うのだが」
「いや、射角的に逃げられないだろう。此方から連絡して部下をやろう」
言いつつ部屋に置かれた受話器を取り、何処かへ連絡しようとする生徒会長。……が、どうやら回線は先回りして切断されていたらしい。
「チッ」
「会長、コレを使うといい」
言いつつ投げ渡すのは、私がこの世界に持ち込んだスマホ。
窓OSのバージョンが2000なのにスマホとかおかしいだろうって? それはアレよ、邪神の悪戯とか。
「……これは? いや、こうか?」
使い方が分らなかったらしい会長だが、その持ち前の頭脳を生かしてパパッと電話を扱って見せた。
ふむ、矢張り世代と言うよりは年代の問題なのだろう。
「――あぁ、私だ。現在襲撃を受けている。至急増援を……あぁ、頼む」
ピッ、と途切れる通話。えらく手馴れた印象を感じつつ、返されたスマホを懐に。
「因みに、携帯電話の持ち込みは次の生徒総会で禁じられる予定だ」
「会長殿、コレは携帯電話の機能を持った携帯端末であります」
「同じだ」
「チッ」
どうやら言い訳は通用しないらしい。いいさ、それならそれで、携帯W○f○とタブレットを持ち歩くから。
「――二人とも、なんでそんなに余裕なの?」
「「慣れているからな」」
綾乃の質問に、思わず自然にそう返していた。
いや、慣れているといってもさすがに学校で襲撃を受けるなんていうのはそう経験したことも無いが。
「ほぉ、君もなれているのか?」
「性質的に、厄介事に首を突っ込む性質でして」
「成程」
納得はしていないのだろうが、事実こうして厄介事に首を突っ込んでいる現状、否定するほどの要素もなく。
それから数分、手元に転がってきた弾丸が5.56mm弾かな、などと如何でもいい事を考えているうちに、何処からとも無くヘリのローター音が聞こえてきた。何事かと考えていると、小さく「来たな」という生徒会長の声。
増援か? などと考えていたら、次いで響くブオオオオオオオオという轟音。この音って、――ガトリング?
途端周囲から響く爆音轟音と悲鳴。
若干憂鬱になりつつ、ことが終わるまでいつの間にか近寄ってきていた綾乃を撫でながら時間を潰したのだった。




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01 ギャルゲ世界に立つ(てしまったどうしよう)

2012.03.15 (Thu)
――勘弁して欲しい。

代行に依頼されて、久しぶりに平凡な世界へのトリップという事に成った。
多重転生トリッパーである私は、幾多の世界を繰り返す事で、徐々に力を蓄え続けるというタイプのトリッパーだ。
利点として、ご都合主義系の神から与えられた能力ではないため、割と自由が聞く。
不利点としては、スタート時には完全に一般人でしかない、と言う点か。
私の場合はとあるSF系世界でその世界の中枢とも言える力を手にして、物語を開放した後、その力を持って気ままなトリップを行っていたのだ。
が、そんな私に目を付けた存在がいた。それが、代行殿だ。
代行殿は文字通り、神(筆者)の代行。使徒とか天使とか、つまり作者代理と言うことだ。
――何かメタな電波が混じった。検閲されている。
なんでも、代行はその昔、ご都合主義系のトリッパーを大量生産しての枝世界介入を実行し、一部……というか一人の例外を除き、その大半を見事に破綻させてしまったらしい。
その結果代行はご都合主義系トリッパーの生産を取りやめ、スリッパー――偶発的転生、ないし偶発的迷い込み系の人格をスカウトし、それを枝世界に送り込む事で物語を開放するという手法に切り替えたのだとか。
私の場合はそのスカウトの一号なのだとか。
そもそも幾当ても無く各世界を放浪していた私にとって、一つ上の視点からの任務型式での介入というのは少し興味を引いた。
まぁ良かろうと容易く受け入れてしまったのだが――。
スカウト1号というのが災いした。
私はSF系出身だというのに、何故か連中は私をSF系ではなくジャンル問わず介入させた。
紅○の徒と殺し合いする羽目に陥ったときは本気で泣き掛けた。オル○ン・エクストラクターとゴーストをスイーパーする世界で目覚めた霊能力でなんとか撃退できたが……。
とりあえず、最近は一人後輩をスカウトしたので、私に割り当てられるタスクが減った。
おかげで今回、半ば休暇という扱いで、平和な世界にトリップすることとなったのだ。

……が。

「アツシくん、屋上で一緒にご飯食べない?」「あ、明日ちょっとアタシに付き合え!」「そんな、無理な笑顔なんてしなくていいんだよ?」「うん、タクヤくんは笑顔が似合うね!!」「会長、一人で無理しないでください。私も、皆もいます!」「私の前では本当の顔をしても大丈夫ですよ?」
とまぁ、こんな感じの会話と言うか、なんというか。フラグ建設に必死な自称ヒロイン達の泥沼合戦が繰り広げられているのだ。


事の起こりは、この世界が腐女子ゲーの世界に私が放り込まれた事から始まる。
私の送り込まれる世界と言うのは、大抵何等かのエラーが存在するか、暴虐を振るう転生者を粛清するだとか、むしろ私が原作を破壊せねばならないだとか、世界にもよるが色々な課題が存在する。
今回のような休暇トリップの場合はそういう課題は免除されるのだが、だからといって何の問題も無い世界にトリップ出来るわけではない。あくまで代行殿の裁量の範囲内でのトリップなのだ。
で、私が投げ込まれたこの腐女子ゲー世界。何がおかしいかというと、どうも多重オリ主トリッパーな世界らしい。
最初、用意された戸籍やらを確認して、指定された高校に入学して。
舞台の上で話す生徒会長が如何視ても耽美系とか言うやつだったのを確認し、「あ、腐女子ゲーか」と納得し。
そうして配属されたクラスで、思わず頭を抱えた。
何せ、クラスの7割が狙いすぎな美少女。残り三割は各種イケメンという有様だ。
それも七割の女子は、その6割が汎用茶髪美少女、2割がピンク髪、1割が青髪、残り一割がその他と言ったような有様だ。
さっと調べた所、コイツラ全員転生者だった。
つまり、リアル逆ハーな世界を望んだ多数の転生者が、一つの世界に押し込められたと、そんな世界なのだ此処は。
最初に気付いたのは誰だったのか。ヒロインたる自分が優遇される筈の世界で、自分に対する補正があまり効果を見せないという事に気付いたのは。
徐々にその事に気付いた彼女達の取った行動は、当に血で血を洗う醜い争奪戦。美形男子達に声を掛けては必死にフラグを立てようとし、次から次へと別人へ声を掛けていく。一人をしっかりと狙えば落とせそうな気もするのだが、彼女達はそうしない。猛禽類の如く瞠目する彼女達の瞳を視るに、こう、絶対にハーレムルートで色男を侍らせる!! という邪なオーラがムンムンと。気付いたときは思わず苦笑して、そのまま頬が引きつった。
何せ、このクラス、私と数人を除いた女子は全員同じ目をしているのだ。
そんな血なまぐさい戦場に足を突っ込みたくないと、前髪で顔を隠して一番後ろの窓際の席を陣取る。それが功を奏したのか、幸い私は彼女等の争奪戦には加わらずに済んだ。というか加わりたくない。

然し、可哀想なのは元々のこの世界の登場人物たちだ。
哀れ原作主人公と思しき少女。何せ周りが男を狙う腐女子ばかりだ。きっと原作で見せたのであろう快活な笑顔は、周りの腐女子にしてみれば男を狙う敵以外のなんでもない。早々に全体から攻撃を喰らいハブられ孤立した。余りにも哀れだったので思わず私が声を掛けてしまったほど、連中の手際の見事な事。さすが元OLだとかそんなのばっかりだけある。年下イジメンナヨカッコワルイ。
で、原作主人公の友人キャラと思しき少女。彼女は逆に周囲からの引く手数多。四方八方から声を掛けられているが、引きつるを通り越して顔面が痙攣している。
何せ痛々しい発言を繰り返す彼女等だが、その全てが美少女なのだ。多分特典だろうけど。連中にしてみれば、彼女は「友人キャラ」でしかなく、自らの引き立て役、利用価値の高いアクセサリーを手に入れようとしているだけなのだ。
洒落にならないレベルのストレスを受け続けた彼女は、結果心を病み、保健室の住人と化した。哀れ。
それでも彼女に声を掛けようとする腐女子トリッパーがいたので、流石に介入してしまったが。哀れ。
本来ならクラスの半数を占める大量のモブたちがいたはずなのだが、彼彼女らは一つ下のクラスへとずれ込み、平和な日常を送っている。何気に彼等が一番ラッキーだろう。
対する攻略キャラの男子諸君。
本来なら男子モブに囲まれて、ある程度は普通の学生生活をエンジョイできていた筈の彼等だが、このクラスに残された男子は全員が攻略キャラ。つまりは物凄く癖のあるキャラクターばかりなのだ。
そういった連中と言うのは、大抵の場合がソリが合わない。連中の場合も見事にソリが合わなかったらしい。
攻略男子諸君は其々に上手く交友を結べず、結果其々が各個人として逆ハー狙いの腐女子相手に奮戦する羽目となってしまっているのだ。哀れ。
でも、堪忍して欲しいのは私も同じだ。
私も女性暦は長いとは言え、オリジナルのパーソナリティーは男だったし、女としても曾孫の顔を拝んだこともあるようなある意味枯れた人間だ。
今さらこう、(性的な)欲望溢れる戦場に投げ込まれると言うのは、精神的に辛い。


まぁ、とりあえず。
そうした連中に囲まれて、「コレも青春か」なんて呟きながら、久々の高校生活を楽し――たのし――たの――っ!! た・の・し・ん・で!!
……なにか、休暇の筈なのに、ストレスばっかり溜まってる気がする。
げふん。この生活を続けていたのだが。どうも、周囲の(腐女子)連中、私の事を友人位置のモブだと認識したらしい。
私を原作ヒロインから引き離し、自分の陣営に引き込もうと行動しだしたのだ。
そうそう、最近になっての話だが、腐女子たちは幾つかの派閥に分かれた。ねらい目以外をわけあう、という名目で協力しているらしいが、アレは多分土壇場で普通に裏切る。
で、友人ポジションその2らしき存在である私を自陣に引き込む事で、自陣の優位性を少しでも確保しよう、と。
……く、話に関わらないように遠巻きに逃げていたのが裏目に出たか。
自分で言うのも何だが、私は結構美人だと思う。身長は170と少し高めだが、肩の辺りで束ねた長髪と黒髪、ある程度引き締まった筋肉と、巨とはいえないが、確りと自己主張する胸も持っている。どこぞのエロゲの攻略ヒロインその3くらいのレベルはある、と思う。
だからだろうか。周囲の腐女子は当初、私の事を同じく転生者の一人(クーデレ系)と認識していたらしい。攻略男子達に気がないと言う様子はポーズで、それを気にした彼等が声を掛けてくるのを待っているのだ……と。
正直、その話を聞いたとき、それを口にした腐女子を殴り殺したくなった私は間違ってないと思う。
とりあえず、当初は敵だと判断されていたのに、争奪戦に入ってもいまだに介入して来ず、転生者だとすれば如何考えても機を逸している……つまり転生者ではなくモブだ、という考えらしい。
気分は当に「ブチ殺すぞ人間」という有様であったが、此処で私が暴れるのも拙い。
物語など当の昔に破綻しているが、だからと言って世界を破綻させるのは拙い。
――ふぅ。
アクセサリーの如く私を周囲に侍らそうと考える腐女子ども。物凄く腹が立ったので、そいつらのヒロイン補正を無効化してやった。
私のような、ある程度の回数以上トリップを繰り返している人間であれば、こういうご都合主義系の補正は大抵無効化できる。特に、こういう超ご都合主義を狙うトリッパー共の補正と言うのは、かなり無理矢理になっている。強欲トリッパーと言うのは、原作ヒロインが出会い→イベント→イベント→イベント→フラグイベントと五工程かけて進むイベントを、出会い→フラグイベントと、二工程に無理矢理縮めるのだ。こんなもの、私が少し手を入れれば簡単に破綻させられるのは理解してもらえるだろう。
逆に、原作キャラの主人候補正とかは、この工程が確りしている所為で中々妨害しにくいのだが……。
とりあえず、そうして私を自陣営に引き込もうとした馬鹿どもは見事に自滅していった。
何せ相手は只でさえ補正の効き辛い原作の攻略男子なのだ。補正があれば可愛らしく見える魅せミスでも、補正が無ければ只の間抜け。もう無表情キャラをやっている私が思わず爆笑しかけたのだからたまらない。
ザマァ、というやつである。



さて、そんなで馬鹿どもを眺めながら、日常を送っている中でのことだ。
「一緒に生徒会はいらない?」
原作ヒロインこと二条綾乃が、突如としてそんなことを言い出した。
「――は?」
「生徒会。この前ちょっと生徒会のお手伝いしたんだけど、そうしたら生徒会の雑務にスカウトされちゃったんだ」
「――ほぅ」
所謂生徒会フラグと言うやつか。この腐女子たちの妨害の中、良くぞそんな王道フラグを建てられた物だと、思わず感心してしまった。
――いや、もしかして、腐女子共が足の引っ張り合いをしていたからこそ、するっと綾乃がフラグを立てられたのかもしれないが。
「でね、今生徒会の雑務の枠がもう少し空いてるんだって」
なんでも、書類整理なんかの雑用に綾乃がスカウトされ、同時に情報処理系の雑務も探しているのだとか。
で、スカウトされた綾乃だが、丁度私がPCに矢鱈と強いことを思い出したらしく、私の事を生徒会に提起、そのまま綾乃が私にスカウトをかけてきた、という話の流れらしい。
「ふむ――なるほど」
「うん、それで、どうせなら友達のほうがよかったし、それで、ね?」
そういって此方を見上げるようにして、親に媚びる子犬のような目でこちらを見上げる綾乃。流石はヒロイン格。母性本能を物凄く擽られる。
だが、駄菓子菓子。ここで綾乃の誘いに頷いてしまうと言うのは、つまり私が晴れて腐女子達の攻撃対象に登録されるという事だ。
折角の休暇だぞ? あんな馬鹿共の相手をして消費したくないよ私は。
「(ウルウルウルウルウル)」
「ぬ、ぅ」
思わず目元を顰めてしまう。そんな私を潤んだ眼で見つめてくる綾乃。
――結局、私が折れたのはそれから20分ほど後のことだ。
「然し――綾乃も成長したか」
「え、なんで?」
「教室ではなく、屋上でそれを話す――学んだな」
「――あ、あはははは」
教室で言えば、またあの腐れ女子どもの興味を引いて、また阿鼻叫喚の地獄が顕現するのは眼に見えている。その辺りを理解して、こうして私との屋上での食事にそれを話したのだろう。どうも原作では屋上で何等かのイベントが起こると言うのは殆ど無かったらしく、滅多にあの腐れどもが訪れることは無い。
学校生活開始直後の綾乃であれば、何処であろうと元気にさっきの様な相談をしてきていたのだろうが、流石に腐れどもに絡まれるのは厭だったのだろう。こうして屋上で私と二人のタイミングで話を持ち出した、という事は。
――あれ? もしかしてこれ、成長じゃなくて、汚れたって言わない?
「如何したの?」
「――否。なんでもない」
まぁ、腐れどもよりは、綾乃のほうがうん千倍マシだ。綾乃のヨゴレなんぞ、大人なら誰しも被る程度のヨゴレなのだから。
「それじゃ、今日の放課後は生徒会へゴーだよ!!」
「ん」
とりあえず、若干の憂鬱を胸のうちに抱えつつ、昼食として用意したお握りを平らげるのだった。


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