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06 帰還と涙と酒乱ども。

2012.03.17 (Sat)
Side Other

「誰じゃっ!!」

誰も居ない筈の地下室。厳重な秘匿がされ、封印されていた筈のその部屋から洩れ出た魔力反応。
隠蔽されたその気配に、しかしこのメルディアナで只一人だけ気づいた人間が居た。
他の誰でもない、このメルディアナ魔法学園の最高責任者。メルディアナ学園長だった。

即座に杖を構え地下室に突入した彼は、即座に威嚇の声をあげ――そうして、その光景に思わず唾を嚥下した。

室内を満たすのは、何処までも優しさを感じさせるライトグリーンの輝き。
けれどもその規模は決して人に出しうる物ではなく、それは嘗て英雄と呼ばれた彼の息子であるナギ・スプリングフィールドのそれすら上回るほどのモノだと、かの翁は即座に感じ取っていた。
その中心にいるのは、如何やって作ったのか小さなスペースに銀色の台座を載せ、その傍で魔力を感じさせる分厚い魔法書らしきものを構える魔法使いらしき人間の姿。

そうして一瞬の硬直を経て、翁はすぐに体勢を立て直し、そして再び驚愕に目をむくことになる。

「なっ――石像が!?」

あふれ出すライトグリーンの光が石像を包み込むと同時。ピシリと音を立てて石像の表面にひび割れが入る。

「止めい!! それは只の石像ではないのじゃぞ!!」
「手を止めるのは其方だよ、御老体。なに、悪いようにはせんよ」

翁の声に、魔法書を構えた魔法使いはそんな言葉を返して。
そうして翁は再び目を見張ることになる。

ひび割れ、零れ落ちた石像の表面。その下からのぞく、肌色の柔らかなそれ。
ざらついた石の肌ではなく、血の通いを感じさせる人肌が、その崩れ落ちた岩の下からのぞいていた。

「馬鹿な、爵位持ちの悪魔の石化を、我々が為し得なかったディスペルを――」
「御老体、世は広い。人の限界は科学が補う。それは魔法も然り。魔法が正しく使われていれば、今頃は科学と競合し、より進んだ世界になっていたかも知れんがな」

その黒ローブは、何処か言い難い感情を、まるで噛み締めるかのようにそう呟いた。

「――貴殿は、一体……」
「御老体、頼みがある。村人の開放をMMに伝えるな」
「な、何故じゃ!? 貴君の行いは本国で正式に表彰され――いや、まさか、そういう事なのか――!?」

そうして翁は、彼の言葉から大まかな経緯を推察してしまう。
それは考えうる可能性。可能性の一つとして考え、しかし戯言と斬り捨てて――違ってほしいと願っていた考え。
然し、この黒ローブの言葉で、老人は一つの確信を得てしまった。

「話が早い。後は頼んでもいいかな?」
「――請け負おう。然し、貴殿は一体……」
「伝えるべきは伝えた。ではな御老体、精々孫が政治の駒にされぬよう気をつけることだ」

黒ローブはそういうと、タンッ――と小さく、けれどもよく響くステップを鳴り響かせた。

そうして翁は、再び目を見開くことと成る。
少年と銀色の舞台装置のようなそれを囲うように、黄金の五芒星。
再び現れる桁違いの魔力に思わず目を回していると、まるで突然地面に穴でも開いたかのように、黒ローブと銀色の舞台装置が魔法陣の中心へと墜ちて行った。

慌てて魔法陣へと近寄る翁であったが、然したどり着いたその場所には何の変哲も無い地面しかなく。

「――取り敢えずは、彼等の手当てじゃな」

四方八方で目覚めた村人達。彼等は数年前の村襲撃事件から、突如として数年後の、メルディアナの秘密地下室に転移したようなものだ。
中にはいまだ戦闘中であったもの、怪我をした所を石化していたものと、それらが一同にパニックになりかけていた。

「やれやれ、しんどい仕事になりそうじゃわい」

小さく呟いた老人は、しかし何処か嬉しそうに面々を見つめ、声を出す為に大きく息を吸い込んだ。
翁の仕事は多い。
彼等に事情を説明し、信用の置けるMMの息の掛かっていない人間に彼等を此処から脱出させ――。
翁の仕事は多い。
けれどもそれは、彼等懐かしき村人達が帰ってきたからこそのものだ。
だからだろうか。翁の口元には、小さな笑みが浮かんでいた。

Side Other End







さて、そういう訳で村人達を開放しました。
何か物凄く厨二病臭い喋り方をしてしまった気がする。うーん、ダメだな。顔を隠して暗躍とかやるとどうしてもテンション上がって厨二病が再発する。シニタクナルネ。
因みに、多分アーチャーさんじゃないかな?

父さん? あの場で父さんだけ連れ帰ったりした場合、確実に疑われるので止めておきました。
まぁ、うちは関東と関西の間――どちらかと言えば関西よりなので、多分普通に帰ってこれるでしょう。
何せ電力も60Hzですし。

とか考えていたら、その数日後に父さんが家に帰ってきた。
もう、あのぽわぽわしてる母さんがポロポロ涙を流しているところを見てしまうともう、此方まで泣けてきてしまった。
うん、ゴメン母さん。もうちょっと頑張って、一刻も早く父さんを解放すべきでした。
――シュープリスの製造に夢中になって、もう少し早くディスペル出来たとか、もう言えません。

で、家に帰ってきた父さんなんだけど、色々勝手が変わってしまっていて相当驚いたようだ。
まぁ、何せ家に帰ってみれば、いつの間にか近所に名も知らぬ大企業の本社が出来ていて、それが自分の家族の起した企業だというのだから驚く。

しかも起業してからも、家自体は前と変わらず引越しも増築も改装もしていないのだ。
防犯? 大丈夫。トイ・リアニメーターが一晩で頑張ってくれました。不法侵入者にはこの「イカ臭くてぬるぬるで白濁していて、しかも浴びると即座に対象の動きを止めるイヤーな拘束液ミサイル」が発射されることになる。
因みにコレ、分解液で即座に分解でき、臭いも浴びた人間以外には全く匂わないというステキ仕様。
デザイナー部門がアイデアを出して、開発部が頑張ってくれました。
但し卑猥すぎるとかで、商品には出来ませんでした。あくまで家と本社の防衛に使われてます。

さて、何か話が逸れた。そう、父さんが帰ってきたという話だ。

前述したとおり、帰ってきた父さんに、あのぽやぽやした母さんがポロポロ泣いてしまったのがことの始まり。
その帰ってきた場所と言うのが、偶々本社に出社していた最中で、家の近所(本社は家の裏手)でうろついていた父さんと、本社の前でばったり。
母さんのポロポロは本社の真正面で行われたのだ。

つまり、母さんと父さんの感動のシーンは、本社社員の全員の目にするところであった。

先ず言うところ、うちの企業は大手ではないものの、中小の新参の中ではかなりの大手に入る。
で、取引規模は大きくても、会社の規模は小さい。何が言いたいかと言うと、社員同士は割りとアットホームな雰囲気なのだ。
要するに、社員の殆どはぽやぽやな母さんと家族のように密な付き合いをしていた。

社員で見ていたやつは、その全員が貰い泣きを喰らったのだ。

で、その日は臨時休業。
俺が面接して雇っておきながら、後から後悔してしまいそうになるほど優秀で堅物な社長秘書の花袋女史ですら貰い泣きし、此方が何か言う前に本社を臨時休業にし、あまつさえ社長の旦那様帰還パーティーをいつの間にか社員一同に広め、気づいたときには本社でパーティーという流れに持ち込まれていた。

あまりの手際のよさに、一歩引いたところで見ていた俺がもう一歩引いてしまうほどの物だった。






「社長の旦那様の帰還を祝って――――――乾杯!!」
「「「「「「「「「「カンパイ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

とまぁ、何故か酒盛りになった父さんの帰還パーティー。
皆々様が酔いつぶれて、母さんもほんのり酔いつぶれたその後のことだ。

普段ののんびりした雰囲気からは似合わない気もするのだが、父さんは実は避けに強いらしい。
余談だが、血筋的にヨーロッパ系のクオーターらしく、その影響か父さんはザルなのだそうだ。

「つまり、鋼一はローカルな魔法を継いだ、その系統唯一の使い手だと」
「んー、唯一ってわけじゃないよ。今現在頑張って後進を育ててる最中だから」

皆が酔いつぶれたその頃合を見計らって、父さんから話しかけられた内容。それは、此方の纏う奇妙な術式を察知してのものだったのだろう。
上手く隠蔽していた心算なのだが、さすがは父さん。母さんに劣るとはいえ、その直感は侮り難い。
さらっと此方が魔に手を伸ばしていることを看破した父さんは、此方を鋭い目つきで――心配そうな表情で訪ねて来た。

うん、母さんもそうなんだけど、普段のんびりしている父さんの真剣な、心配そうな顔と言うのはとても心臓に悪い。しかも数年ぶりに見る顔だ。やばいぐらい精神に来た。

と言うわけで、父さんには要約した話をしておいた。
異世界の魔術だ転生だというのは余りにも胡散臭い。そこで、魔導というローカルな――例えば日本土着の陰陽道や修験道のような――魔法として、魔導を習ったという事にした。
習得方法は魔導書からの独学。流石に不審な顔をされたが。

「いいかい鋼一。この世には“立派な魔法使い”を目指す――」
「ストップ父さん。MMのイデオロギーは|現実世界《ここ》では通用しないよ」

言いかけた父さんの言葉を、静止の言葉で上塗りする。

「魔導の本懐は魔に抗う術。人の世を魔の邪悪から守り抜く守りの戦いだよ。正義とか悪とかそんなお題目は、僕らにはどうでもいいんだ」
「如何でもいいって――でも、立派な魔法使いは……」
「その立派な魔法使いに、何の罪も無い幾多の人間が石にされたわけなんだけれども」

言いながら、父さんにことの顛末を|情報源《ソース》をぼかして語る。
……さすがは父さん。立派な魔法使いというMMのお題目、心底信じているというわけではないようだ。

「――そうか。ボクの知らない間に大きくなったんだね」
「4年も過ぎれば至極当然に」
「そっか。……MMの欺瞞たっぷりの“立派な魔法使い”は確かに語る価値も無い。でもね鋼一。皆が目指す“立派な魔法使い”は、決して悪いものではない。誇り高く、誰かを助けられる魔法使いを目指すことは、決して悪いことではないんだ。それだけは知っておいてほしい」
「うん。そも、魔導師の魔術は、守りの戦いにこそあるものだから」

魔法は生活の一部として、その果に戦争の武器と成り果てた存在。
対して魔術は、思考の知識にいたろうとして、其処から魔と戦う為の武器として研ぎ澄まされたもの。

「ふ……そうか。僕の教えられることなんて無いのかもね」
「魔法の教えなんて如何でもいい。――ただ、普通に父さんがいてくれれば、それでいいよ」

父さんに求めるものは、魔法の師ではない。
父さんに求めるものは、あくまで父さんなのだから。

「そっか――」
「そうだよ」

そういって、どちらともなく破顔する。
小難しい話は如何でもいい。大切なのは、父さんが漸く家に帰ってきたという事。

「お帰り父さん」
「ああ、ただいま」

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