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00-1 序章

2012.06.08 (Fri)

「それはつまり、私の娘は用済みだという事か?」
『そうは言わない。が、数は最低限にまで絞って、キミには新しい研究に移ってもらいたいのだよ』

その日、ある場所、とある地下の研究室で。
その青年は、所属する秘密組織で開発していた作品を、しかし上層部からその研究の中断を申し付けられていた。

彼が研究していたプロジェクト。俗に“超人計画”と呼ばれるソレは、古来から人々の間で語り継がれ、夢として歴史と共に研究され続けていた代物だ。

嘗てのオリンピックで、幾たびかドーピングが問題視される事があった。
コレは解りやすい超人計画の一端で、薬物強化のほかにも、遺伝子組み合わせ実験、遺伝子改造、機械化改造、精神改造と、様々な試みが行われていた。

そうして彼が研究していた作品は、機械化改造の一種になる。
人の身体に機械を埋め込むと、人体は如何しても拒絶反応を起す。

では、拒絶反応を起さない方法とは?
最初から遺伝子を操作し、機械を受け入れやすい身体を作ればいいのではないか?

そんな構想の下に産み出された機械と人のハーフ。それが、俗に戦闘機人と呼ばれる彼女達である。

「研究は順調なんだ! 彼女達は既に一端異常の戦力として――」
『時代が変わったのだよ、Dr.スカリエッティ。既に個人の持つ戦力は重要視されず、これからの世界はIS――インフィニットストラトスという兵器によって動く事になる。解りたまえよ、きみ』

そういってモニターの向うの老人は通信を遮断した。

ギリリと歯を噛み締める彼――スカリエッティは、まるで何かを思い出したかのように、まるで狂ったかのように素早く、猛然と、狂然とキーボードを連打し始めた。

――プシュッ

「只今戻りました――如何なされたのですか、ドクター?」

小さな空気圧式自動ドアの開閉音を響かせて室内へと入ってきた一人の女性。
スカリエッティと似た容姿の、けれどもはっきりと女性とわかる細い線の女性は、部屋の中で一人狂った笑顔を浮かべる自らの主に、無表情に、けれども見る者が見ればそうだとわかる、心配そうな表情を浮かべて問い掛けた。

「あぁ、お帰りウーノ。いやなに、私の研究はどうやら、ご老人達には受け入れられなかった様でね」
「ドクターの研究がですか?」

愉しそうに、けれども何処か怒りを感じさせるスカリエッティーの言葉に、ウーノは思わず目を見開いていた。
彼女――ウーノは、Dr.スカリエッティの最初に製造した機人、最初の作品なのだ。
故に彼女は理解できる。自らの主が作り出す機人と言う存在が、どれ程人類に貢献しうるか。その研究がどれ程世界を推し進める事が出来るのか。

「ご老人達は、物の価値がわからないのですね」
「――そう言ってくれると、すこし気が紛れるよ。まぁ、そういうわけで、早速この研究所から逃げようかな、と」
「……解りました。直ちに準備を始めます」

たったそれだけの会話。三言四言話しただけで、ウーノはスカリエッティの意志を大まかに推察した。
彼女は戦闘機人でありながら、戦闘に向いた能力を付与されているわけではない。
彼女に与えられた戦闘能力。それは、主スカリエッティの手となり足となり、彼の横で一番最後の砦となることなのだ。
スカリエッティの才能(いんし)が分け与えられ、誰よりも彼の傍に長く居た彼女は、それゆえに他の誰よりもスカリエッティという存在について熟知していた。

「あぁ、助かるよ。データの纏めはある程度やってるから、D-1あたりのデータから頼む」
「解りました。逃走経路の方はクアットロに投げておきます」
「頼むよ」

そうして、事は彼の手の平の上であっという間に脚を進める。
製造中の姉妹達を廃棄すると偽り、様々なルートから彼の新しい住処へと移送、ソレと同時に新居の設備を徐々に整えていく。
更にご老人達に怪しまれぬよう、彼等に指示されたとおりインフィニット・ストラトスという「新時代の象徴(笑)」に対する研究も開始した。

此処で彼の予想外だったことは、ISという技術が彼の予想以上に面白い代物であったという事だろう。
人の強化。パワードスーツという分野は、嘗てのスターヲーズ計画では、超人計画と並び取り上げられたジャンルだ。

スカリエッティは天才だ。天才故に、その“無限の欲望”と呼ばれる自らの欲に、何処か児戯たものがあることを、彼は自覚していた。

そう、彼は夢想してしまったのだ。彼の娘と、窮極の蒼穹が組み合わさったその姿を。

「ふむ、起す会社はIS関連でもいいかもしれないな」

情報を纏める最中、彼がそんな事を呟いたとか。







そうして約束の日が訪れる。

某日某所、とある秘密組織の存在する施設に、無数の無人陸戦兵器が強襲を仕掛けた。

逆脚二足の、一昔前のSFにでも登場しそうなマシンウォーカー。
無粋にして無骨の極み、没個性を極めればこうなるとでも言わんばかりの無個性。
そんな機体が、施設に向けてミサイルや大砲を雨霰と撃ち込んだのだ。

当然、施設地上部は即座に壊滅。次いで地底ブロックも徐々に壊れていく。
ミサイルの中に、対地下攻撃用ミサイル、バンカーバスターが混ざっていたのだ。

噴煙を撒き散らして地底に舞い降りた銀色の杭は、その瞬間に大爆発を起こし、施設地下を完全壊滅させた。

そうして、その数日後。
某組織により、研究所に所属する研究員、警護官、一般事務員と、その全ての全滅が確認された。






「ふむ、完璧だ。惜しむべきは、ただ殺す為に自らを生み出さねばならんことか」

ドクターこと、ジェイル・スカリエッティは、培養ポッドの中に浮かぶ、自分そっくりの人間を見つめてそう呟いた。

ジェイル・スカリエッティー。彼は生命機械工学の裏の権威だ。
表で名を知られることは少なく、しかし裏で彼の名を知らないのはモグリといわれるほどの権威なのだ。
そんな彼だ。自らの死体を一つ用意するくらい、数日も有れば十分に可能であった。

培養ポッドから取り出した自らのクローン。それに自らが着用しているものと同じ服を着せ終えると、彼はクローンを机に横たえ、即座に自らの研究室を後にした。

「クアットロ、予定に変更は?」
『はぁ~い、問題ありませんドクター。予定通りB13のA3地区に向かってください。ブツは其処にちゃんと用意しておきますよ』
「そうか、頼もしいな」

呟いて、スカリエッティは地下行きの階段に脚を運ぶ。
手すりを持って慎重に、けれども大急ぎで階段をかけ降りて。

「……そろそろか」

そう呟いた瞬間、地下施設が盛大に揺れた。
腕時計を見れば、自国は予定通り。何事も彼の予定表にズレは無かった。

そうして階段を駆け下り、目的の地下フロアへと辿り付く。
B13フロア。此処は、彼の別のチームの研究成果が保管されているフロアだったのだが、スカリエッティがこのフロアに降り立つのは、実は初めてのことだった。
何せ、スカリエッティは天才だ。その才能を羨まれ嫉まれ、入室拒否をされるなんていうのはザラだったのだから。
まぁ、基本的に彼にはウーノが居たので、特に問題も無く。

そうして、クアットロに指定されたブロックへ足を踏み入れようとした直前。
彼の端に、二人の人影が目に付いた。

「キミ達は――」
「――」「……っ」

砕けた研究室の壁。其処から外を覗くようにしていた二つの人影。
青い髪に緑かかった瞳。
6歳くらいの震える少女と、ソレに寄り添うように立つ4歳ほどの凛とした少女。
スカリエッティには、彼女達に対して見覚えがあった。
アレは何時だったか、スカリエッティの研究成果の一部がオープンされ、ソレが別部署で魔改造された成果として発表されたもの。
タイプ・ゼロシリーズと呼称される戦闘機人シリーズだった筈だ。

彼女達はスカリエッティの戦闘機人たちとは違い、あくまでも実験材料、モルモットとしての扱いしかされていなかった筈だ。
だとすれば、なるほど彼女達はこの研究室に放置されていたのだろうと理解できる。

さて。スカリエッティは思わずその場に立ち止まった。
スカリエッティにしてみれば、思わぬところに目撃者を作ってしまったことになる。
特に彼女達は戦闘機人なのだ。例え死んだとしても、死後に記憶を引き出すことは不可能ではない(ただしそんなことが出来るのはスカリエッティクラスの天才に限るが)。

「ふむ、キミ達も付いて来るかね?」

と、スカリエッティは言ってから、自らの口から零れた言葉に思わず首をかしげていた。
彼は善人ではない。偽善を嫌うとかそういうレベルではなく、そもそも人の善悪観念に対して嘲笑を返すような類の人種だ。
だからこそ、彼は自分の、相手を助けるような言葉に思わず首をかしげたのだ。

――まぁ、彼女達のISにも興味があるから。

スカリエッティはそんな後付の理由で自らを納得させると、彼女達に手を差し伸べてみた。
実質、彼が生まれてはじめての人助けだったりした。

そうして、先にその手を握ったのは、震える少女の傍に佇む小さな少女、タイプゼロセカンドと呼ばれる少女だった。

「ふむ、キミはどうするかね?」
「……」

問い掛けるスカリエッティに、然しタイプゼロファーストと呼ばれる少女は震えるだけで。
仕方無しに、スカリエッティはタイプゼロセカンドの少女だけを引き連れて行こうと判断して。

「お姉ちゃん、いこ?」

タイプゼロセカンドの放ったそんな言葉。
思わず目を丸くするスカリエッティの前で、ゼロセカンドの言葉におずおずと手を伸ばすゼロファースト。
そうしてスカリエッティの傍に寄った二人のタイプゼロを前に、思わず繁々と少女達を観察してしまうスカリエッティ。

「ふむ」

面白いものを見たと、体全体で語るスカリエッティ。
が、ゼロセカンドがスカリエッティの太ももをチョンチョンとつつくと、周辺が崩落しだし、そろそろ本気で危ないという事にスカリエッティも気づいた。

「さて、では行こうか」

コクリと頷く二人のタイプゼロ。
そうして訪れたクアットロの指定地区。

実験機材が置かれているだけのはずのその空間には、しかし普段とは大分様相が違っていた。

先ず、機材が鉄くずになっていた。
次に、部屋に大穴が開いていた。
最後に、何か部屋に突っ込んでいた。

「ふはははは、コレこそ我々の誇る地底移動用ドリルマシン『トラパノ』だ!!」
「――穴あけ機の直訳……」

嬉しそうに笑うスカリエッティの脇、タイプゼロセカンドが思わずといった様子でゲンナリと突っ込みを入れていた。ゼロファーストのほうは何の事か理解できなかったらしく、可愛らしく首をかしげていた。

それは乗り物ですか? いいえ、ドリルです。
-- It is a machine ?
----No, it's a Drille
一言で言い表すなら、横たわる巨大な円柱の先端に、これまた巨大なドリルがくっついている。
円柱の所々にはキャタピラが設置されており――黄金を食べて黄金になった怪獣(ゴルドン)と衝突してしまいそうなデザインだった。

そうしていると、ドリルの胴体部分らしきところがガパンと音を立てて開き、その中から茶髪めがねの少女が現れて。

「はぁ~いドクター。お迎えに参りましたよ~……って、あら? その子達は?」
「タイプゼロの二人だ。偶々逃げ出していたところに出会ってね。折角だから連れて行こうと思う」
「そうですか。……うーん、まぁ、大丈夫かな?」

何か怖い呟きを漏らして、ドリルの中に乗り込むクアットロ。
スカリエッティに促され、タイプゼロの二人もドリルに乗り込む。ソレを確認したスカリエッティが最後にドリリの中へともぐりこんで。

「うむ、なんだか妙に狭くないかね?」
「まぁ、元々一人乗りですし、無理矢理改造して漸く二人乗りのところを、無茶して四人で乗ってるんですからそりゃ狭いかと」
「――大丈夫なのかね?」

地底探査機と言うのは、そう簡単なものではない。
圧力の話もあれば、空気の話もあり、下手をすれば上下すらわからなくなる。
マグマに触れる可能性もあるし、未知のガスを発掘してしまう可能性だってある。
地底探査と言うのは、実にシビアな環境であるのだ。

「当然、拙いですね~」
「ふむ」
「でもまぁ、クアットロちゃんにお任せくださいな。ちゃ~んと基地の方にお送りしますんで」
「ああ、任せるさ」

然し、スカリエッティ組みはその程度の些細なことに恐れたりはしない。
いいのかそれで、という突っ込みをする人間など、当然居る筈も無く。

「…………」
「――はぁ」

恐怖に青ざめるタイプゼロファーストと、思わずといった様子で溜息を吐くタイプゼロセカンドの二人を乗せて、トラパノは地底を進むのだった。



「あ、計器が故障してる?」
「「「!!」」」
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