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01 無垢なる一刃、異界に降りん。

2012.03.17 (Sat)

燃える炎と、襲い来る偉業の化物。
常軌を逸したその光景は、漸く手に入れた平穏がまたまがい物であったのだと確信するには十分すぎる光景だった。

「馬鹿な……」

けれども、ふざけているのはそれだけではなかった。
敵対し、此方に対して攻撃を仕掛けてくる異形。異形達はその魔の力で村に火を放ち、逃げ惑う人々を石へと変貌させていく。
けれども、けれどもだ。
村人達も仰々しく呪文を唱え、あの異形達に光の矢を撃ち、酷い有様ではあるものの、確かに抵抗を返しながら撤退している。

一体如何いうことだと、自分の中の常識が崩れ去るような、そんな感覚に襲われた。





――俺の名前は諏訪鋼一。しがない日本の一般家庭に生まれた転生者だ。
いや、転生者であったのは、たぶん過去の話なのだと思う。
俺が生まれたこの日本は、もう既に過去に俺が生まれたあの世界とは大分様相が違う。

俺が過去に生まれた世界。魔と機械が跋扈する、妖幻の世界であり、敵対的邪神と魔導師達が世界をかけて戦い続けたアザトースの庭。
俺は、その世界に邪神の悪戯により産み落とされた、邪神の眷属でありながら人の側に立つ魔導師だった。

そう、あの最後の戦いも覚えている。
大導師と魔導探偵の最終決戦。邪神達の入り口。その中へと消えていった二人と二機と二冊。
そうして書き換えられていく世界。

外側からの干渉を断ち切ったあの世界で、俺は最後の最後まで生き抜いて、そうして死ねたのだ。
享年は……確か56くらいだったか。

そう、俺は確かに転生者として働きはした。
しかし、もう既に俺の任は解かれたはずだ。
だから、今回俺の記憶が転生後に目覚めてしまったのも、何等かの事故か手違いだと判断した。

なにせコレほどまでに平和な世界だ。俺が手を出す必要性なんて何処にも無いだろうと、そう思っていた。


事の始まりは、俺が六歳になり、嘗ての記憶を取り戻して丁度一年程たった頃だろうか。
その頃になると、俺も嘗ての知識をある程度会得しなおすことに成功して、基本的な魔導を幼い身体に馴染ませることが出来た、と言うくらいの頃だ。

それで気づいたのだ。父親の身体に残る、魔導の臭い。
魔に携わる物であれば、隠し様の無い、あの気配だ。

ただ、俺の知るソレとは少し違う。俺の知るのは邪神の力を借り受けるものだが、父親の身体に残るこの気配は、何処か風を感じさせる、暗い臭いとは遠い気配だった。

俺が知るのは字祷子の魔導。けれども、此処は高確率で字祷子の庭ではない。
何故なら邪神の気配が無い。過去の歴史を調べても、覇道財閥が存在せず、アーカムが存在せず、またプロヴィデンスが現存している。
此処はあの世界ではないのだと、そう納得していたのに。
だと言うのに現れた魔の気配。

まぁ、人の世だ。生きていれば魔の一つくらい出てもおかしくは無い。
そう納得していたのに。

「鋼一、ちょっと外国いこうか」

父にそう誘われて訪れたのはイギリス、ウェールズの山奥。
古い記憶が危険を叫ぶ。もしかすると、それは俺のオリジナルの知識だったのかもしれない。所謂原作知識と呼ばれるそれ。だが然し、そのときの俺には知識を思い出す術がなかった。
何せ無限螺旋で幾星霜に渡る時を過したのだ。邪神の加護がなければ、俺も確実に壊れていたと思える年月。
まぁ、途中で何度も未覚醒のままループが終わった世界も多々あったが。

そうして訪れたウェールズの山奥。
なんとも怪しげなその村。なにせこれほどの山奥に有ると言うのに、発電機もなければ移動手段の車も存在しない。
だと言うのに、何処の家にも街で手に入るような普通の家財道具が並んでいるのだ。
そして極めつけは、この村を囲うようにして張り巡らされた結界。
この村に入るときに見えた霧と感覚からして、多分外敵から身を隠す為の、認識を阻害する類の結界だろう。

――認識阻害?

なんだか聞いた事のある単語に、記憶が少し刺激される。
ああもう、カリンさえ手元にいれば少しは違うのに。

そんなことを考えながら、父と俺はその村に一泊することと成った。
何でもその村にいる父の友人に会いに来たとかで、数日ほどこの村に滞在することになった。
本来ならこの山の麓にある街に宿を取る筈だったのだが、父の友人に勧められ、この村に滞在することになったのだ。

確かに一々麓の町に帰るのは面倒ではあったが、此処で家に帰っていれば、後々の面倒はなかったのではないかと、後になって後悔している。





村に滞在している間に。俺は二人の子供と知り合った。
ネギとアーニャ。名前を聞いたとき、物凄い頭痛に襲われた。記憶の復旧は成らないが、このことから考えて、この二人は何等かのキーパーソンであることは間違いないだろう。

アーニャはまだマシだったが、ネギは山奥に住んでいると言うだけあって、途轍もなく田舎ものだった。正直アーニャもまだまだだとは思うが。まぁ、そういうわけで、二人は俺の(実質数百年分の)知識に目を輝かせて食いついてきた。

ジャパニーズ折り紙とあや取り、その他縄跳びやら色々で遊んだ。
此方の方が年上と言うこともあって、二人をリードして遊んでいたのだが。うん、アーニャめ。年上を全く敬わん。いいけど。

――言葉? ハハッ、数百年アーカム在住だった俺を舐めんな。

アーニャは麓の町の学校に通っており、学校の休日にこちらに帰ってきていたのだそうだ。
ネギとアーニャは、この村にいる数少ない子供だそうだ。解りやすい少子化。過疎が進み、子供が減っているのだろう。
然し、こんな不便なところに住んでいれば、過疎も進んで当然だとは思うが。

で、俺とアーニャとネギは散々遊びまくった。
数百年分の記憶があるとはいえ、今の俺は「今の俺」なのだ。要するに、精神年齢が退行していた。
ネギから魔の才能を感じたり、アーニャに炎の魔の――クトゥグアの好みそうな気配を感じたりしたが、まぁソレはおれの関わる部分ではない。
何となくそう割り切って、というか興味を持たず、ただ綺麗な緑の山肌を駆け抜け、釣りをして遊び、食べて遊んで遊びまくった。

途中、なにやらネギが自分の父親は偉大なマホ……とか口走って、アーニャに叱られていたのがとても印象的だった。う~ん、フラグ。
ネギの従姉妹のネカネさんが何時も後ろで微笑んでいたのが妙に印象に残った。



そうして数日。アーニャが一足先に山を下り、涙をボロボロ零すネギを何とか慰め、一緒に湖まで釣りに行ったその帰り。

「……なんだよ、これ」
「おねーちゃん!? みんな!?」
「あ、ちょ、止まれネギ!!」

悲鳴を上げたネギが此方の静止も聞かずに走り出す。
赤く染まる夜空と立ち上る熱気。何処からともなく響く悲鳴と爆音。

ネギに続いて村へと近付くにつれて、それははっきりと見えた。
千を越える異形の群れが、小さな村を飲み込もうとする光景。
その余りにも洒落にならない光景に、背筋に冷たい物が走る。

――逃げなければ。

幾ら無限螺旋を経験した俺とはいえ、今の俺は所詮6つの餓鬼だ。
確かに魔導はつかえる。然し、魔導書の無い現状では、精々基本的なところが限界。嘗ての術式兵装は当然使えず、また術式補助のための兵装も、この世界に着てから魔導を使うことなど考えていなかったため、当然所持どころか製作すらしていない。

出来るのなんて、レジストと術式防御、あとは肉体強化くらいか。

大慌てでその場から逃げ出そうと踵を返そうとして、ふと父親のことを考える。
――あの父親、もしかして村にいないか?

ゴクリとつばを飲み込んだ。
今生のとはいえ、父は父。俺は俺でもあり“俺”でもある。今生の俺は、また独立した俺なのだ。
だから、と言うわけではないとも思うが、俺は父が好きだ。母も好きだ。
そうして俺は知っている。父から漂う魔の気配は、とてもではないが強いとは言えず、アレが魔術なり魔に携わる者であるとすれば、寧ろ普通に雑魚の類だろうと。

その父を……見捨てる?

無理だ。無理無理。あの根性無しでヘタレで、でも弱者を見てみぬフリの出来ない心優しい馬鹿親。

俺が無力で有ればよかった。無力であれば、理不尽を理不尽と受け入れられたかもしれない。

……けれども俺は持っている。理不尽に抗う力を。魔を討ち滅ぼす力を。

「ああっ、チクショウっ!!!」

悪態をついて、意識を集中する。
大切なのは何時だって意志。闘争本能を奮い立たせ、それを意志を持って制御する。
封印していた魔力の蓋を開き、巡る魔力を整然と体内で循環させる。
最も初歩的な身体強化。しかし、それ故に強靭な身体の守り。

小さく一歩を踏み出して、そのまま一気に村に向かって走り出した。






村は酷い有様だった。
所々で火の手が上がり、転がる石像からは酷い闇の気配が立ち上っていた。
石化の呪。この世界では如何だか知らないが、古から存在する、かなり凶悪な魔術。
試しにレジストをかけてみる。時間さえあれば解呪も不可能ではないと判断して、即座にその場から移動する。

その最中で、見つけてしまったのだ。

「う――そ」

石像とかした一人の人間。杖らしきものを掲げて、その姿で石像と化した見慣れた顔。

「――ヌ、マダイキノコリガイタカ」

そうして、近付いてくる魔の気配。

「ガキダト? コノムラニイルガキハ、スプリングフィールドダケデハナイノカ?」
「ハナシガチガウ……ガ、契約ハ契約ダ」

けれども、魔の気配だとか、恐怖だとか、そんなものよりも先に来るものがあった。

「デハ……」
「ウム」

胸のうちに沸々と滾るこの感覚。
祈りであり願いであり切望であり希望である。

「――ヌ!?」
「コノ、ケハイハ――!?」
「イカン、殺セ!!」

ソレは永劫。裁きの刃。
ソレは憎悪。無垢なる怒り。
ソレは虚空。許されざる全。
ソレは魔風。無窮の刃。
ソレは刃。魔を断つ剣。

記憶が力を貸してくれる。

悪魔の手の平に集う魔光。けれどもそれは、内側から沸き上がる魔力の本流に掻き消され。
放たれたとび蹴りは、その一撃で悪魔の存在を砕く。

「グガアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ナンダオトォ!?」

右手を振るい放たれる烈風と火炎。それは四方の悪魔を飲み込む。

怒り。怒り。怒り。
憎悪が身体を作り変える。
ただの人であることから、魔導師であるための身体に。
ソレまでに行った作り変えすら塗り替えて、その器は嘗ての物に勝るとも劣らぬものへと。

――魔導師、諏訪鋼一

外見は変わらずとも、その存在する意味は既に大きく異なる。
ここにいるのはこの世界唯一の魔導師であり、同時に魔を断つ願いを託された一欠片。

「ふむ、この村にこれほどの使い手が居ようとは。――それもまだ子供か」

身を包む火災旋風。その外側に現れたのは、外見人の姿を取った化物。
俺にその類の擬装は効かず。

「我が名はユリウス・ハンス・フォン・ハイエク。一手お相手願おう」

そんな悪魔の名乗りと共に、火災旋風の壁が突破される。
咄嗟に防護障壁を張ったものの、その上からでも通るほどの拳の一撃。身体を背後に飛ばして被害を軽減させるが、それでもその打撃は怒りに支配された俺を冷静にするには十分だった。

フォンを名乗る悪魔。なるほど爵位持ちか。
あの世界では悪魔よりも邪神の脅威が大きかったが、それでも悪魔と言う存在に関する知識は多少持ち合わせている。
確か悪魔にも爵位制が採用されていて、当然上位者のほうが強い。

だが、俺の知ったことではない。
追撃に何等かの魔導らしきものを放ってくる悪魔。
けれど、もう俺にはソレを回避するという選択肢すら取る必要を感じなかった。

「なっ!?」

完全覚醒した瞬間から感じていたもの。
時間すら、世界すら超えて、此方にいたろうとする意志の手。
契約と聖約により我等は滅びても、朽ちても、それでも尚共に有り続けることを誓った。

出でよ、現れよ、顕現せよ、我が手に、我が下に、戻れ!!


「カリィィィィィイイイイイイイイン!!!!!!!!!」


瞬間、天壌が砕けたガラスのように弾け散り、その中から一冊の本が降り落ちる。
革表紙に、金の留め金のなされた革表紙の冊子。

本が現れると同時、砕け散った天壌は、時間を巻き戻すかのごとく空へと舞い上がり、天壌に開いた虚空を何事もなかったかのごとく埋めなおす。

けれども何事もなかったわけではない。
確かに、此処に、我が手の内に。

「カリン」
《探しました、マスター》
「遠い場所まで、良く来てくれた」
《わが身、我が心、我が魂は常に主様と共に》

我が魔導書、カリン。魔導書ネクロノミコンラテン語版からの再編版。
原本とは異なり、ラテン語版を下にセラエノ断章や、エイボンの書などの記述を理解し編纂した知識が取り込まれている。
つまりコレは、ネクロノミコンの皮を被ったオリジナルの魔導書だ。
そしてカリンは、無銘祭祀書――黒の書を取りこんだ際に発現した書の精霊。
俺と無限螺旋を共に歩んだ、異界の魔導書である。

「|魔導戦闘形態《マギウススタイル》」
《肯定。魔導戦闘形態実行》

魔導書のページが風に舞い、同時に身を包み込む。
身を包む暖かさが、同時に身の内から更なる熱気を呼び覚ます。

「魔刃鍛造」
《バルザイの偃月刀》

右手に鍛造したソレを振りかぶる。
風に乗った偃月刀は、その刀身に刻まれた炎熱術式により刃を白熱させ、驚愕に立ちすくむ爵位持ち悪魔を腹から真っ二つに引き裂いた。

「――馬鹿、な……」

手元に戻った偃月刀を再び振りかぶり、地に沈む悪魔に止めを刺す。
人外の生命力は舐められない。確りと止めを刺す。これはホラーハンターの常識。

然し、これで状況は確認できた。
力の状態は万全。何故かこの世界には存在しない筈の旧支配者の力も行使できた。
そしてカリンの召喚方法からみて、ヨグ=ソトース……つまり外なる神の力もある程度は行使できると考えていいだろう。

本当に邪神の力を行使しているのか、それとも俺個人の異界法則が邪神の力をエミュレートしているのか。
現状、嘗ての自分に比べて、妙に力が増している現状、どうにも後者っぽい気がしてならないのだが、それは脇にのけておく。

とりあえずやるべきことは一つ。あの調子こいた悪魔どもを殲滅しなければなるまい。

「対霊狙撃砲」
《展開》

そうして瞬時に手に現れた魔導師の杖。

《イア・ハスター》
「狙い撃て!!」

放たれた凍風の魔光は空へと昇り、四方八方へ向けて無差別に降り注ぐのだった。

「――何っ!?」

そうして悪魔を殲滅する最中、何処からともなく強大な魔力が湧き上がった。
咄嗟に身を伏せると同時に空を覆う雷光。

その大半は丘に集う悪魔の群を穿ったが、狙いの逸れた幾つかが、村に向かって降り注いで。

「っ!!」
《呪紋障壁最大出力》

張り巡らされた障壁に直撃する雷光。
一つ一つが重いそれ。幾重にも打ち込まれた雷光に、思わず反撃を返そうとして、不意にめまいに襲われた。

「――っ、これは……まさか」
《急激な魔力行使による負荷です。マスター、ご自愛ください》
「しかし――ダメか」

意識が薄れるのを感じる。
咄嗟に身体を動かして、地殻の森の中へと飛ぶ。
何とかたどり着いた森の中、浮き上がり樹の上に身体を横たえて、漸く一息。

石化の呪をディスペルするにしても、現状の俺では力不足だろう。
とりあえず、一休みしなければ。

やることは多い。けれども、焦ってもいいことは少ない。
逸る己にそう言い聞かせて、一時の眠りに意識を沈めたのだった。
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