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13 麻帆良学園 ―嗚呼、麗しき魔法の街よ。

2012.07.04 (Wed)
「率直に聞こう。貴様は何者だ?」

学校の校舎を出て、少し歩いた郊外の森近く。
そこにひっそりと立つログハウスこそが、この童姿の闇の魔王の現在の住居だそうだ。

「だから、新任の教師だと言ってるでしょ?」
「うむ? 先程は『新任の副担教師』といってなかったか?」
「同じでしょうが」

言うとマクダウェルは「ククク」と小さく笑って見せて、然しその鋭い目つきを尖らせて此方を睨みつけてきた。

「これ以上のお為ごかしは止せよ? 此処ならば外に情報は洩れん。私からの譲歩は此処までだと思え」
「闇の福音が譲歩ですか」
「魔法を使わず、私とあそこまで渡り合った事に対する敬意だよ」

言うマクダウェル。
――ふむ。

マクダウェルに対して、この場で出た話に対する秘匿をするならば、と言う条件を持ち出してみたところ、「無論」とだけ言葉が返ってきた。
まぁ、いいか。

「マクダウェルさん。一つ質問をいいですか?」
「何だ?」
「マクダウェルさん。貴女は、100を活かす為に10を斬り捨てるか、10を活かすが為100を殺すか。あなたならどちらを選びます?」
「なんだいきなり。えらく抽象的な話だが?」

突然何を言い出すのか。
そんな感情が、愉快そうなマクダウェルの表情には浮かんでいた。

「私なら、か――ふむ、私が選ぶのだとすれば、私の利となりうる1を選ぶのだろうな。それ以外など知った事か」
「――ええ、なんとも『らしい』答えだ」
「闇の福音らしい、と言うことか?」
「人間らしい、と言う意味です」
「はっ!! この私に向かって人間らしい!? この真祖の吸血鬼、闇の福音にむかって!?」

コレは驚いた、ここにいるのは気をやった若年性痴呆症の患者か――なんて大げさに驚いてみせるエヴァンジェリン。

「いや、無意味に世界平和を謳うよりは、大切な物を選ぶ、と言う答えはエゴ塗れで、なんとも人間らしいなと」
「――然し、それならば、正義という言葉に焦がれを感じるのもまた――」
「ソレもまた、『人間らしい』のでしょうね――まぁ、ソレは如何でもいいことなんですよ」

俺が何者なのか。ソレを語るために、少しだけ話を戻す。

「俺はね、教師でもあり、企業の経営陣の一人でもあり、とある組織のトップでもあり、思想家であり革命家でもあり、――何より、魔を断つ一刃だと思っています」

此処に来て得た教師という名前。諏訪グループの創立者としての存在。M∴S(銀色の月光団)のアデプタスとしての自分。魔法世界の影響を現実世界から排斥しようと言う革命家としての自ら。そして何より、絶対と言う名の理不尽を、憎悪で砕く刃の欠片。

「ふむ、矢張り貴様は物騒だな。で、その革命家で魔を断つ一刃が、この麻帆良にいったい何をしに来た? 私の抹殺か?」
「ご冗談を。被害者を嬲るなんてのは悪趣味な魔法使いであって、我々(・・)はそういう事はしませんよ」
「――ふん、色々突っ込みどころはあるんだが、突っ込んでいては話が進まん。結局の所、貴様は何なんだ? 魔法使いでない、と言うなら、その闇の気配は一体なんだ!?」
「魔導師、といいます」

さらっと答えてみた。

「魔導師? 魔法使いではないのか?」
「ええ、違います。魔法使いが“魔を担う者”であるなら、魔導師は“魔を帯び魔に抗う者”を自称しています」

そう前置きしてから、マクダウェルに対して少しだけ話す事にした。
魔法世界の影響からの脱却、魔法という無法に対する魔導というカウンターの存在。
そして、つい最近わかったことなのだが、この世界にも魔導は存在していたという事。嘗て、の話だが。

「元々、魔導というのは魔法ソレそのものより古い存在で、魔導は“魔”に対して抗う為、それだけを目的として産み出された術です」
「如何いうことだ?」
「簡単に言うと、退魔の魔法、と考えれば簡単でしょうか。人の世を守るため、なんて大層なお題目は掲げませんが、日々の生活を守るため、誰かが理不尽に泣かずにすむように、あらゆる“魔”と戦う為の存在。それが魔導師です」
「まるで、“正義の味方”だな」
「我々は、単純に理不尽に近い不可能に、子供の様にそんな物認められないと抗いたいだけですよ」

正義なんて如何でもいい、と言うと、マクダウェルは何処か少し虚ろに笑った。

「ふむ――で、為らば貴様は何をしにこの麻帆良へ?」
「簡単に言うと、革命のために」

ピクリと眉間にしわを寄せるマクダウェル。

「――言っておくが、この街の人間に危害を加えるようなら――」
「いえ、ソレは有りませんので安心を。我々の目的は、現実世界を幻想世界の支配から脱却させる事。この麻帆良は幻想世界の現実世界に対する、いわば橋頭堡。まず何をするにしても、ここを抑えなければ事は成りませんので」
「一般人に危害は出んのだろうな?」
「それは無論。というか、一般人に被害を出してしまうと、我々の理念に矛盾が出ますので」

――しかし、其処に拘るのはさすが“女子供は殺さない”という事で有名なエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。闇の福音の名は伊達ではないか。 それとも、麻帆良で丸くなったのか。

「あちら側の支配を断ち切る――か。面白い事を考える」
「そうですか? 至極当然の考えだと思いますが」

魔法世界の人間は、やたらとこちら側を卑下する。その癖、こちら側に対する影響力は確保したいらしく、世界各地に自らの陣営の拠点を作り、こちら側に古来から存在する魔法組織を自らの傘下に加えたがる。
それはこちら側の世界の勢力にしてみればいい迷惑でしかない。
事実、関西呪術協会のように、あちら側の戦争には全く関係ないというのに、MMの意向とやらの所為で無理矢理向こう側の戦争に参加させられた現実世界側組織は多々ある。

「実際、多かったですよ? 向こう側の勢力を厭う現実世界勢力」

黄金○夜明け団とか、混○魔術とか。魔術結社ではないが、魔法の存在を知る秘密結社にフリ○メイソンとか。

「――ふん、MMの老害が、有る意味で実を結んだという事か」
「そうなりますね。向こう側からの過剰な干渉。そして現実世界に対する悪影響の拡大。その結果として、魔導師と言う存在が復活した――とまぁ、少し間は飛んでいるんですが、大まかな流れはそんなところです」

チグハグかつ拙い説明に、思わず申し訳なくなる。
演説用の原稿とかなら簡単なのだが、こういう冷静な場所で静かに解説をする、とか言うのは案外難しいのだ。

「要するに、貴様等――魔導師だったか? は、魔法使い達に戦争を仕掛ける、と。その前段階として、この麻帆良で諜報活動をしている、と?」
「諜報活動――まぁ、そんな感じです。予言によると、時代が動くのはこの麻帆良だと言われているので」
「予言?」

ピクリと動くマクダウェルの眉毛。うーん、もしかして彼女、結構わかりやすい?

「ええ。英雄の子による改革の伝説。麻帆良の土地から始まるとされる、長い英雄譚の予言です」
「それは――英雄の子というのは」
「ええ、ナギ・スプリングフィールドの息子、ネギ・スプリングフィールドだと我々は考えています」

其処からまた少しだけ話し出す。
マクダウェルはネギ・スプリングフィールドという名前が出たとき、少しだけ悲しそうな表情を浮かべていた。うむ、乙女の涙は見ないふりをするのが紳士というものだ。

「――然し、魔法世界からの脱却な。どうする心算だ?」
「ゲートを潰します」
「……まさか、少し前にあった現実世界側ゲートポート襲撃事件は……」
「さて」

にっこり、敢て意味有り気に微笑んでみせる。
明言はしない。が、その態度でマクダウェルは大筋を理解したようだ。

「――しかし、それは……」
「幻想世界の崩壊、ですか?」
「ぬ、貴様……」

矢張り気づいていたか。
マクダウェルは卓越した魔法技術の持ち主だ。その技術は、当然現実世界だけではなく、魔法世界でも運用されたものなのだろう。

そして何よりも、ジオラマ魔法球。魔法に卓越し、尚且つアレの所有者であるならば。
そんな彼女であれば、幻想世界の違和感に関しては何処かで気づいているはずだ。

「知ってるのか?」
「大凡の想像は」
「なら、ゲートポートの破壊が何を引き起こすか、それも理解しているのか?」
「ずれた時限に存在する幻想世界を、地球に結びつける楔、ですね」

要するに、ゲートポートというのは、門としての役割を持った錨だ。
ゲートポートを全て破壊するとどうなるのか。明確には解らないが、多分、魔法世界は途端に消滅するか、はたまた完全な異次元に墜ちるか。
少なくとも、全てを破壊してしまえば、地球と行き来は完全に阻止できる。

「しかしそれは」
「向こうは此方を他所と判断してるんです。なのに、向うの争いに此方を巻き込もうとし、あまつさえその保険にこんな都市を作ったりする。いい面の皮ですが、当然それを厭う人間は出て当たり前でしょう」
「しかし、全ての人間がそうと言うわけではないだろう?」
「それこそ、知った事ではありません。火星と地球、どちらを守りたいかと問われれば、俺が守りたいのはこの地球なので」

正直、幻想世界というのはこの地球にとってあまり利にならない。

「そもそも、魔の隠匿は、一般人を魔の害から守るために定められたものです」
「ふむ、古来魔法に巻き込まれた人間で、その後まともな人生を遅れた人間と言うのは……皆無とは言わんが、少ないのだろう」

実際、私などと言う前例も要るし――なんて、小さくボソッと呟いたマクダウェル。
いや、聞こえてますよ? 言いませんけど。

「ところが。現状ではそのもとの理由はただの建前となり、その実は魔法と言う技能を持つ人間を貴族のように扱い、それを持たない人間を卑賤の身と蔑み、あまつさえそれが隠匿された現実世界で、それが隠匿されているという事を言い事に、魔法で好き勝手する」
「――魔法犯罪か」
「然り。正義の魔法使い? 何を笑わせる。そもそも争いの火種である魔法を持ち込んだのは連中だろうに。正義の行い? 紛争地帯に悪戯に介入し、主義も理想も無く力技で意志を押さえつける。確かに戦争は憎むべきですけど、其処に意味はあるのか?」

持論ではあるが、争いと言うのは生命に許された権利だと思う。自らの種の存続のために戦うのは、全ての生命に許された特権だ。
そして人間は、種の為だけではなく、自らの思想のために戦う事が出来る、地上で唯一の存在だ。
それを、「戦争は悪だ、悪い事だ」という客観的な意見だけで強制的に鎮圧する。
それは本当に意味があるのか。

「一言で言うと、魔法は邪魔なんです。この科学の社会では。存在するなとは言いませんが、もう少し分を弁えろ、と」
「――ふむ」

それを駆逐する為に、現代に蘇った魔導。
なんとも過激な意見ではある、というのは自覚している。
けれども、その意見を曲げたいというのなら、代替案なり何かを用意してから出なければ我々は耳を貸さない。

「まぁ、いいのではないか?」
「――えらくあっさりしてますね」
「ふん、魔法使い共が滅ぼうが駆逐されようが、私の知った事ではない。それこそ弱肉強食、因果応報と言うものなんだろうさ」

言うとゆったりとソファに腰掛けるマクダウェル。
――ふむ、為らば一つ、交渉を持ちかけてみようか。

「マクダウェルさん。一つ交渉しませんか?」
「私と交渉だと? まぁ、聞くだけ聞かんでもないが――安くは無いぞ?」
「貴女にかけられた呪いの解除を対価に、私の計画妨害を止める、と言うものです」

――がたんっ!
視線を上げれば、ソファから勢い良く立ち上がったマクダウェルが此方を睨みつけていて。

「貴様、私の呪いを解けるのかっ!?」
「まぁ、容易く」
「解け!! 今すぐに!!」
「契約は……」
「そんな物幾らでも結んでやる!!」

いいながらガクガクと此方の首を前後左右に振り回すマクダウェル。
慌てて宥めて、なんとかマクダウェルを落ち着かせる。どれだけ解呪したいんだか。

「とりあえず、学園側に察知されるのは避けたいんで、何処か魔術的に断絶した空間を用意しなけりゃならんのですが……」
「魔術的断絶――ふむ、要するに魔力的な接続が遮断されている空間という事か。ならばアレが使えるな」

そういってマクダウェルに腕をつかまれ、強制的に部屋を移動する。
隠れるように儲けられた地下室への階段。それを引きずられるように降りると、その地下の部屋の一室に、台座の上に載せられた薄らと輝く玉が載せられていた。

「これは……ジオラマ魔法球?」
「ダイオラマ魔法球だ」
「意味としては同じでしょうが」

なんだか同じような会話を、逆の立場でついさっきやったような。
TINAMIに、ダイオラマというのは、ジオラマの英語読みだったはず。ジオラマはフランス語だそうだ。






※※※※    ※※※※    ※※※※    ※※※※    ※※※※


然し、コレがかの有名なダイオラマ魔法球、通称『別荘』か。
確かに一時間を一日と言うのは、有る意味他より早く成長できるという利点はある。――が、それは他より早く“老ける”と言うことだ。女性――普通の人間には、あまり連続して使用すべき代物ではないだろう。

「さて、どうだ?」
「確かに、此処ならばばれないですね」
「ふむ――では、貴様の言う魔術とやら、じっくりと見せて貰うとしよう」

然り、と頷いて、手を空に掲げる。

「――カリン」
『Yes’Master.』

空間を割って現れたのは、我が魔導書ネクロノミコン再編本のカリン。
割れたガラスの様に穴を開けた空間は、すぐさま時計を巻き戻すようにしてその姿を元に戻す。
そうして現れたカリンは、即座にページの束となり、俺の身を包み込む。

『|魔導戦闘形態《マギウス・スタイル》』
《肯定。魔導戦闘形態実行》
「ヴーアの無敵の印において、力を与えよ。力を与えよ。力を与えよ」
《バルザイの偃月刀――鍛造》

魔力により生まれた炎。その中から生み出された、魔導師の杖たる魔刃。
マクダウェルはコレだけでも良く驚いてくれたようだ。
ふむ、少し気分がいい。ついでに派手に魅せようか。


「霊燃機関、全力稼動――超攻勢術式防御結界」
『顕現せよ、霊験あらたかなる刃よ』

そうして、己の身を囲うようにして増殖する幾多の偃月刀。

「術式添付」
『対呪詛破壊術式』

言霊と共に放たれる呪術的情報により、無数のバルザイの偃月刀に青い光が宿る。
字祷子として伝播したした呪詛感染によって刻まれた刻印。それは、文字通り呪詛を断つ為だけに編み出した術式だ。

「――往け」

そうして放たれた刃は、マクダウェルを囲うようにして地面に突き立ち――

――ガギィンッ!!

派手な音を立てて、マクダウェルのその身を雁字搦めにしていた、呪の鎖その事如くを須らく断ち切ったのだった。

「おめでとう、マクダウェル。コレで君は自由の身だ」
「――ああ、そうだな。コレで漸く私は、自由になったんだな」

そうして、呆然とした表情で呟くマクダウェル。
その表情は、何処か切なそうで、俺はその瞳から零れた小さな雫を見なかった事にしたのだった。



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そういえば龍宮さんって30巻くらいで魔法世界の事を幻想世界って連呼してるんだよね。ネギが謎解きする前から殆ど気づいてたんじゃないかなー……と。
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